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レジ袋有料化で変わった意識と行動

=「コロナごみ」急増で新たな問題も=

2020年09月01日

地球環境

主任研究員
遊佐 昭紀

 2020年7月にスタートした「レジ袋有料化」義務付けから、2カ月が経過した。「レジ袋はどうされますか?」「エコバック持参なので大丈夫です。」―。筆者も当初は、店員と交わすこんな会話に違和感を覚えたが、今ではすっかり「ルーチン」に。レジで周囲を見渡しても混乱を見ることはなく、人々の生活の中にすっかり定着したようだ。

 事実、消費者の意識には顕著な変化がうかがえる。大手コンビニエンスストアのファミリーマートによると、7月のレジ袋辞退率は有料化前の30%から77%(速報値)へと急上昇。他の大手コンビニでも同様の傾向が見られる。

 そもそもレジ袋有料化が義務付けされたのは、海洋プラスチックごみの削減が目的だ。海に漂流したレジ袋をクラゲや小魚などをエサとする生物が摂取、もしくはそれが細かく分解されたマイクロプラスチックの形でこうした生物の体内に取り込まれており、生態系への深刻な影響が懸念される。

写真海岸に漂着したレジ袋に入った生活ごみ(神奈川県・鵠沼海岸、後方が江の島)

 そこで政府は、容器包装リサイクル法※1の省令を2019年12月末に改正、レジ袋有料化を義務付けた。使い捨てのシングルユース・プラスチック(=使い捨てプラ)の利用を少しでも減らし、海洋へ流出するプラスチックの削減を図るのが狙いだ。

 有料化義務付けの対象は、持ち手のついたプラスチック製の袋。ただし、フィルムの厚さが50マイクロメートル以上のものや、紙・布製のもの、自然分解される植物由来バイオマス素材が25%以上含まれるものなどは、再利用可能を理由に対象外とされる。

 このため、奇妙な現象も起こっている。大手コンビニは植物由来バイオマス素材が25%を含むレジ袋に切り替えたが、有料化義務付けの対象ではないのに有料で提供。消費者への環境意識の向上が目的だという。これに対し、大手外食チェーンなどもテイクアウト用のレジ袋を同様の植物由来のものに切り替えたが、無料で提供している。従来のものより製造コストはかかるが、衛生面への配慮を優先して使い切りにしたという。

写真植物由来のバイオマス素材を含むレジ袋(自宅にて)

 このように、有料化義務付けは消費者、業者の双方に意識や行動の変化を促した。とはいえ、海洋汚染問題の解決への道のりは険しい。

 なぜなら先述したように依然、一定割合でレジ袋を購入する層が存在するからだ。実際、これまでレジ袋を家庭内でのごみ袋として再利用していた人からは、今後も購入するという声が上がっている。導入が進む植物由来のバイオマス素材のレジ袋についても、自然界で100%分解されるものでなければ、効果は薄い。従来のレジ袋と同様、海洋プラスチックごみとなってしまうのだ。

 海洋汚染の元凶は何もレジ袋だけでなく、ペットボトルも指摘される。清涼飲料用ペットボトルは、リサイクルによる再資源化が進んでいるとされるものの(日本の2018年度リサイクル率84.6%)※2、漂着ごみや海底ごみとなるものは決して少なくない。

 加えて、コロナ禍で新たな問題も浮上している。使い捨てのマスクや手袋、医療従事者用の防護服などの素材となるポリプロピレンやポリエステルが、世界中で需要が急増中。使用後、これらの一部は適切に処分されず、海洋中に漂う「コロナごみ」として問題視されているのだ。例えば、国内の家庭用マスクだけ見ても、2019年度の供給量は前年度比18%増の50億枚(重量ベースで約2万トン)※3を超えており、2020年度はこれを大幅に上回るのは確実だ。

 一方、国内のレジ袋消費量は2018年で約37万トン※4と推計され、日本の廃プラ総排出量891万トン※5に対し4%程度。しかも、レジ袋が海洋に流出しているのはその一部に過ぎない。せっかくレジ袋削減に乗り出しても、コロナごみが増えるのであれば効果は減殺されてしまう。

 こうした困難な問題に対し、確実な処方箋があるわけではない。せめて、ごみの捨て方を再点検するよう提案したい。レジ袋やペットボトルなど使い捨てプラの削減を心掛けるのは当然として、外出時もごみを持ち帰りたい。万が一、街中で廃棄しなければいけないときは、風で飛ばされないよう確実にごみ箱の中までしっかり入れる。言うまでもなく、使用済みの使い捨てマスクは絶対に持ち帰り、家庭で適正に処分すべきだ。

 使い捨てプラ削減という「入口」ばかりに焦点を当てるのでなく、海洋流出阻止という「出口」にもしっかり目を配ることが大切ではないか。一人ひとりが日ごろから細心の注意を払い、できることをしない限り、海洋汚染問題の解決は見えてこない。

(写真)筆者


※1(出所)容器包装リサイクル法:正式名称は「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律 平成七年法律第百十二号」
※2 (出所)PETボトルリサイクル推進協議会 
リサイクル率の算出より
※3 (出所)一般社団法人日本衛生材料工業連合会
マスク統計データより抜粋。
重量ベースは、4g/枚として、リコー経済社会研究所にて算出。
※4 (出所)日本ポリオレフィンフィルム工業組合のデータを参考にリコー経済社会研究所にて推計
2018年の国内製レジ袋出荷量は8万308トン、ポリエチレン袋の輸入量は58万6千トンで、うち1/2の29万3千トンをレジ袋と想定。これらを合算し国内レジ袋消費量37万3千トン≒約37万トンと推計した。
※5 (出所)一般社団法人 プラスチック循環利用協会
2018年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況マテリアルフロー図より抜粋

遊佐 昭紀

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