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森林伐採はすべて環境に悪いのか

=実は木材活用で二酸化炭素の削減も=

2019年10月18日

地球環境

研究員
間藤 直哉

 昼夜を分かたず立ち上る炎、白煙がくすぶる焼け野原―。このところ、テレビで連日のようにブラジル・アマゾンの森林火災に関するニュースを目にする。その熱帯雨林の面積は550万平方キロメートルと、日本の国土面積の約14倍。大量の二酸化炭素を吸収し、酸素を作り出すことから「地球の肺」とも呼ばれる。いわば人類の共有財産ともいえる森林が最悪の危機に瀕しているのだ。

 欧州連合(EU)の研究機関、コペルニクス気候変動サービスによると、この火災で発生した二酸化炭素の量は2019年8月1日~26日の1カ月足らずで約2500万トン。これは国内で日本の航空会社などが使用する航空機による1年間の二酸化炭素排出量の約2.4倍に相当する。延焼を放置していると批判を浴びたブラジルのボルソナーロ大統領も軍隊を投入するなど対策に乗り出したが、現時点で鎮火のめどは立っていない。

 この火災をきっかけに、世界規模で進む森林破壊に改めて注目が集まった。国連食糧農業機関(FAO)がまとめた「世界森林資源評価2015」によると、1990年以降の25年間で世界の森林面積は3.1%縮小。農地や住宅地の開発に伴い、ブラジルに加えインドネシアなどでも熱帯雨林の減少が深刻になっている。

 こうしたニュースに接していると、木でできた製品を使うことに罪悪感を覚える人もいるだろう。しかし、森林の伐採がどんな場合でも環境破壊を引き起こすとは限らない。それどころか、積極的な利用が環境保全につながる場合さえある。日本の森林の約4割を占める人工林がまさにそうなのだ。

 人工林は自然林と異なり、放置するとさまざまな問題を引き起こす。例えば、余分な木を間引く「間伐」を行わないと、幹が太くならず根も張らない。密集すると太陽光が地面に届かないので、下草が育たず表面の土が雨などで流出してしまう。これが毎年のように起きている土砂災害の一因だとも指摘されている。

 計画的に木を伐って使えば、二酸化炭素を減らす効果も期待できる。木は大きくなる過程で二酸化炭素を吸収するからだ。その量は育ち盛りの木ほど大きいので、手入れが行き届いた人工林は、成長が止まった自然林よりも二酸化炭素の減少に貢献できるのだ。もちろん、伐った木を燃やせば二酸化炭素に戻ってしまうが、建築などに使えば長期にわたって固定できる。日本が得意な木造建築は二酸化炭素の「貯蔵庫」の役割を果たしているとも言える。

 ところが、国産材の利用は低迷している。日本の人工林の利用可能木材資源は年間約5300万立方メートル増えている。これに対し、実際に活用されるのは2714万立方メートルと、その半分にとどまる(2016年)。人口減少やマンション人気の影響で、木造住宅の需要が減っているからだ。さらに、国産に比べ安い輸入材の増加も低迷に拍車をかけている。

 どうすれば国産材の利用を増やせるのか。林野庁は毎年10月を「木づかい推進月間」に指定し、暮らしの中に木製品を取り入れる意義を訴えている。2015年に創設した「ウッドデザイン賞」もそうした取り組みの一つ。2018年の最優秀賞には有明西学園(東京都江東区)の木造校舎が選ばれた。木のぬくもりに囲まれて学べば、生徒たちに木を大切に扱う気持ちが芽生えるかもしれない。

20191016_01.jpg江東区有明西学園の校舎
(提供)ウッドデザイン賞運営事務局

20191016_02.jpg江東区有明西学園の校内
(提供)ウッドデザイン賞運営事務局

 校舎のような建築物は、比較的耐久性の高い木材を大量に使う。大型建築に木を用いることは人工林を維持する上で重要だ。そこで国は、2010年に「公共建築物等木材利用促進法」を施行。公共建築への活用を促している。国や地方自治体の建築物だけでなく、病院や体育館も対象となり、最近は木造の老人ホームなどが増えてきた。

 この運動を進める林野庁木材利用課の飯田俊平課長補佐によると、「技術革新により、幅広い建築物に木材を使えるようになってきた」という。繊維の向きが直交するよう木板を張り合わせたCLT(Cross Laminated Timber)もその一つ。強度はコンクリート並みにできるし、難燃剤をしみ込ませるなどして耐火性能を高めた木材も開発された。こうした建材を使えば建築基準法の耐震・耐火基準をクリアすることも可能だ。飯田さんは「今後はオフィスビルや商業施設といった住宅以外の低層建築物と、現在はほとんど非木造建築となっている4階建て以上の中高層建築物への利用を促す」と説明する。

20191016_04.jpg林野庁林政部木材利用課・課長補佐の飯田俊平さん(左)と木質バイオマス専門官の高木望さん(右)
(写真)筆者 RICOH GRⅢ

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(出所)林野庁「森林・林業・木材産業の現状と課題」(2019年6月版)

 

 ただ、間伐材には細すぎて建築に向かないものも多い。製材の過程では、枝や葉、オガクズなどの廃棄物も大量に発生する。それらの活用先として期待が高まるのが、燃やして熱や電気を取り出す木質バイオマス利用だ。

 燃料など木質バイオマスの利用量は、2011~2017年の間で8倍以上に急増した。2012年に再生可能エネルギーの普及を促す固定価格買取制度(FIT)がスタートし、間伐材などを燃料として使う発電所が一気に増えたことが大きな要因だ。

 「これまで間伐後に放置されがちだった低質材の安定的な需要ができたことで、林業関係者は一年を通じて木材生産をしやすくなった。間伐が盛んになれば、将来生産される木の質が上がるなど相乗効果も期待できる」と、同課の高木望さんは話す。それでも、木質バイオマスとして活用している「林地残材」の利用率は19%にとどまる(2016年)。裏返せば、まだまだ活用の余地は大きいということだ。

 木材は日本に豊富に存在する資源で、しかも再生可能だ。地球温暖化対策の観点からも、「伐って、使って、植えて、育てる」という循環を創ることは重要だろう。とりわけ「植えて、育てる」技術に磨きをかければ、冒頭のアマゾンのように失われた森林の回復に日本が貢献できる日もいつか来るかもしれない。

間藤 直哉

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