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「命」を無駄なく使う発電所

=捨てられていた枝葉も活用=

2018年09月07日

地球環境

研究員
間藤 直哉

 自宅の近所にいつも混んでいる焼肉店がある。ほかではなかなか食べられない珍しい部位を扱っていると評判なのだ。この店では、選ぶのに迷っていると店員さんが説明図を渡してくれる。牛のイラストを見ていると「こんなところまで食べられるのか」と感心してしまう。一つの生命を無駄なく食べ尽くす―。実はこれと似た構想が林業でも進んでいる。

 高知龍馬空港(高知県南国市)から車を走らせること約2時間。愛媛県と接する宿毛市に入ると、木材を燃料とする木質バイオマス発電所の建物が見えてくる。近くで見ると施設の大きさに圧倒される。宿毛市に住む1万世帯分を上回る発電量(4500万kWh)を誇るという。

20180907_01.jpg高知県宿毛市の木質バイオマス発電施設

 木材が燃料と聞いて丸太を想像していたが、全く違っていた。山積みされた木には細い枝が多く、緑の葉も付いたままだ。「一般の木質バイオマス発電所と違い、これまで山に捨てられていた枝や葉も利用できるのが特徴です」―。発電所を運営する株式会社グリーン・エネルギー研究所の永野正朗専務取締役はこう語る。

 切り出した木を土木・建築・家具製作に適した部分やパルプ用のチップ向けなどに分け、無駄なく使い切ることは環境保全の観点からも大切だ。供給先が広がれば林業関係者の収入が増え、結果として森林整備も進むからだ。山に捨てられていた枝葉まで燃料にできれば、原木のほとんどの部位を使えることになる。

20180907_02.jpg木質バイオマス発電の燃料となる枝葉

枝葉の説明図
(作成)筆者

 この発電所では木質ボイラー用の燃料となるペレットも生産している。その原料には製材所から出るおが粉※1を使う。木を裁断したり削ったりする際に必ず出てしまう「ゴミ」の付加価値を上げる試みだ。供給先を確保するため、農家に木質ボイラーを導入してもらう取り組みも並行して進めているという。


※1:おが粉
 ノコギリなどで木材を加工する際に生じる細かい木屑のこと。「おがくず」とも言われる。


 発電後に出る灰についても有効利用を進める。一般には廃棄物としてお金を払って引き取ってもらうが、「成分を分析し、肥料として使えることが分かっているので、農家が購入してくれる」(永野氏)という。

 ここまで木を使い尽くす仕組みができれば、全国に広がりそうだが、話はそう単純でもないようだ。木材は安くないし、木質ペレットは冬場での利用がメインになってしまうといった課題がある。

20180907_04.jpg20180907_05.jpg細かく粉砕されたおが粉(上)と生産されたペレット(下)

 最も大きな問題は生み出した電気を安定した価格で売り続けられるかどうかだ。「現在はFIT (再生可能エネルギーの固定価格買取制度)※2 に基づいて買い取ってもらうことで経営がうまくいっている。価格が下がって、このシステムが回らなくなるのが怖い」と永野さんは話す。


※2:FIT(Feed-in Tariff)
 太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間電気事業者が買い取ることを義務付ける制度。現在は普及を促すため割高に設定されている。


 発電所の運営だけで30人が携わる。このほかに木を切る人や運ぶ人、電気を使う人と周辺にもたくさんの関係者がバイオマス発電システムに組み込まれている。将来、FITが廃止されても簡単に止めることはできないのだ。

 政府もFITに頼らずにこうした発電所を自立的に運営できるよう様々な施策を進めている。再生可能エネルギーの普及を促すだけでなく、既にあるシステムをどうすれば維持できるか、「FIT の次の世界」を考える必要がある。それが木という「命」を無駄なく牛のように使い切るのに必要な条件だと思う。

(写真)筆者 PENTAX WG-3

間藤 直哉

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