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海水から真水!水不足は一気に解消?どうすれば飲めるようになるのか

2014年10月01日

地球環境

主任研究員
柳橋 泰生

 世界の人口は70億人を突破し、2050年には95億人に達する(国連人口推計)。人口増加はすなわち、水の使用量の拡大をもたらす。人が生きていくには生活用水が欠かせないほか、農工業用水も確保しなければならない。

 人口一人当たりの水資源量が年間1700立方メートルを下回る場合には「水ストレス下にある」と国際的に規定されており、今、43カ国の約7億人もの人々がこのストレスを強いられているという。さらに、地球温暖化も水不足を深刻化させる。今春の気候変動に関する政府間パネル報告書も、地球温暖化に伴う水不足の拡大に警告を発している。

 もしも地球上の水の97%を占める海水を自由に利用できれば、水不足は一気に解消できる。ところが、海水には人間にとって厄介な塩分が3.5%も含まれている。それを取り除いて、淡水(真水)を造りだす技術が海水淡水化である。

 紀元前から、人間は海水淡水化に挑んできた。古代ギリシャの船乗りが海水を蒸発させて真水を手に入れたり、ローマ人が粘土で海水を濾(こ)して塩を除去したり...。17世紀の英国海軍が海水の淡水化実験に取り組んだという文書が残されている。また、1790年にはトーマス・ジェファーソン米国務長官(後の大統領)に対し、海水淡水化の技術が売り込まれていたという記録もある。

 現在実用化されている海水淡水化の方法は、「蒸発法」と「膜法」に二分される。前者は海水を加熱した上で、その蒸気を凝縮して淡水を造る。後者では、塩分を通さない特殊な膜を利用する方法が一般的である。


1日25万人分を造水 福岡の海水淡水化センター

 日本では離島を中心に小規模な海水淡水化施設が多数設置されてきたが、大規模なものとなると福岡県と沖縄県の2カ所しかない。このうち福岡市東区にある海水淡水化センター「まみずピア」を視察した。福岡県北西部は過去40年間、1978~79年と1994~95年の二度にわたり、かつてない少雨によって大渇水に見舞われた。前者は「福岡大渇水」と呼ばれ、給水制限が実に287日間にも及んだ。4万世帯以上で全く水が出ない状況となり、自衛隊が生活用水の海上輸送に駆り出されている。

 福岡都市圏(人口約240万人)は域内に一級河川がないため、福岡地区水道企業団が1983年以降、域外の筑後川から取水し、水の安定供給に努めてきた。しかし、水道用水の3分の1を筑後川に依存するようになっても、水需要の拡大や頻発する渇水に対応しきれない。筑後川にもこれ以上頼れなくなり、福岡都市圏の各自治体は自助努力を迫られ、海水淡水化施設を建設した。1995年に生活用水の供給を始め、その規模は1日5万立方メートル(約25万人分)の真水を造り出すという巨大なプラントだ。
 
 その海水から淡水を造る膜法は、①水を海底から取水する②比較的目の粗い膜に通し、微生物などを取り除く③塩分を通さない極端に目の細かい膜に通し、海水を真水にする―という手順になる。

 この「まみずピア」の最大の特徴は、海水の取水方法にある。従来は海底に取水施設を構築していたため、漁業や船舶航行の支障になりかねないという欠点があった。

 これに対し、「まみずピア」は玄界灘の海底を掘って取水管を埋設する手法を採り、こうした欠点を解消した。また、海底の砂の層によって汚れが濾過(ろか)されるから、きれいになった海水を取り入れられる。ただし、砂の層が崩れないようにする必要があり、1日6メートルというゆっくりした速度でしか取水できない。このため、取水面積は野球のグラウンド3面分という広大なものになる。

 「まみずピア」の心臓部が、超高圧の逆浸透膜である。取水した海水をまず前処理用の膜に通し、その次に超高圧をかけて逆浸透膜に通す。高さ800メートルの噴水に匹敵する圧力によって、真水だけが膜を通る。こうして造られた淡水を試しに飲んでみると、通常の水道水に遜色のない味がした。ただし、ミネラル分が少ないため、実際に家庭に供給される際には通常の水道水とブレンドされている。

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 ところで、逆浸透膜を通らない塩分は濃縮されるため、塩辛い水が大量にできてしまう。そのまま海に放出すると、環境汚染が懸念される。このため、近くの下水処理場からの放流水と混ぜ合わせ、塩分を薄くしてから放出している。

 気になるコストを「まみずピア」の担当者に尋ねると、1立方メートル当たり200円を超えるという。通常水道水の100~150円に比べれば割高だが、大渇水になれば市民生活がマヒ状態に陥ることを考えると、止むを得ないのかもしれない。


サウジが世界最大の「真水産出国」

 世界全体を見渡すと、海水以外の塩水を含めた淡水化施設はこれまでに1万6000カ所も建設されている。その処理能力は一日6000万立方メートルに達し、「まみずピア」の1200倍に相当する。しかもその建設ピッチが加速している。

 世界最大の施設はサウジアラビアで稼動しており、一日に100万立方メートルの真水を造ることができる。施設数が最も多いのもサウジであり、以下、米国、アラブ首長国連邦(UAE)、スペイン、クウェート、中国と続き、日本は7位である。
 
 今後、海水淡水化施設の建設はますます加速していくだろう。新興国の人口増加や地球規模の気候変動を背景に、水不足が一層深刻になると予想されるからだ。ただし、現行の淡水化には大量のエネルギーが必要になるため、省エネ化が普及に向けた最大の課題になる。

柳橋 泰生

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※この記事は、2014年10月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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