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人と環境に優しい町づくり

=復興にまい進する南三陸の人々=

2018年06月27日

地球環境

研究員
間藤 直哉

 東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県南三陸町。沿岸部を走っていたJR気仙沼線の駅が流出してしまうほどのダメージを受け、今も同町を貫く気仙沼駅と柳津駅(登米市)の間の路線は不通だ。代わりに公共の交通手段として、BRT(バス高速輸送システム)が2012年12月22日に本格運行しており、早い段階でつながった。

 そのBRTの駅の一つ志津川駅は2017年3月、大型観光施設「南三陸さんさん商店街」のリニューアルオープンに合わせて、同商店街から徒歩約1分のところに移動してきた。町の中心に交通手段と観光施設が揃ったことで、町民同士がつながり、町民と観光客が触れ合える場所が整ったのだ。

20180626_01.jpgさんさん商店街

20180626_02.jpgBRT志津川駅

 南三陸町は復興の最中、バイオマス産業都市構想を策定し、国から認定された。バイオマス産業都市とは、「地域の特色を活かしたバイオマス産業を軸とした環境にやさしく災害に強い町づくりを目指す地域」のこと。同町では分別された生ごみを発酵させ、そこから出るバイオガスで電気をつくり、副産物として液体の肥料が得られる、バイオマス発電施設を稼動させている。

 南三陸町がユニークなのは、この発電施設を真ん中にして"入り口"ともいえる生ごみ分別を行う宿泊施設や"出口"に当たる液体肥料を活用する農家の三点をそれぞれ体験・見学することで、資源循環を体感できるプログラムを用意していることだ。ただ環境に優しいと言うのではなく、身をもって感じてもらうことで、理解を深めることができるのだ。

 これ以外にも地域色を利用したプログラムが多数ある。南三陸町観光協会の菅原きえさんと宮本隆之さんに話を伺った。代表的なものが農林漁業などを営む家庭に宿泊し、地域の生活を感じてもらう民泊体験プログラムだ。菅原さんは「震災後復興を通じて、人が大切であり、たくさんの人に来ていただき、南三陸町民に出会って欲しいと強く思うようになった」と話す。

20180626_03.jpg南三陸観光協会の菅原さん(左)と宮本さん

 また民泊以外にも、自然や森を感じてもらう林業体験や里の生活に関わる農業体験、海から学ぶ漁業体験など、それぞれの産業から環境への取組みを学べるプログラムが揃っている。「一次産業が主の町なので、プログラムは自然と環境に関連するものが多くなってしまうんです」と話す宮本さん。

 どのプログラムを体験しても、南三陸町の特徴である森・里・海が循環していることが学べる。小さな世界ではあっても、環境が連鎖し、さらにはその循環自体を実感できるのだ。環境に優しい町づくりが進む南三陸町が誇るのは、森は山のエコラベルである「FSC認証」と、海では海のエコラベルといわれる「ASC認証」を、カキ養殖で同時に取得している点だ。あとは里に当たる農業でエコラベルが取りたいという声も出ているという。

 もちろん、これだけ幅広いプログラムを企画・実行するには、観光協会だけの力ではできない。農業協働組合や漁業協同組合、水産加工業、商店街組合などさまざまな関係者が協力している。林業に関しては南三陸森林管理協議会の事務局長である佐藤太一さんが力を貸している。大学院で宇宙放射線物理を研究していた佐藤さんだが、震災後、森林経営を主とする家業を継ぐために南三陸町に戻った。先述の林業体験プログラムでは講師となり、枝打ち・間伐を通じて山の大切さを知ってもらう。そして、参加者には木工製品の製作体験などで林業に対する理解を深めてもらっている。

20180626_04.jpg南三陸森林管理協議会の佐藤太一事務局長

 佐藤さんは、国内の林業が疲弊しているという課題も指摘する。この課題を克服するために始めたのがボイラーやストーブ用のペレット生産だ。「今は復興のために木材需要は十分あるが、一段落したときのことも今から考えて新たな産業化への道筋を付けておく必要がある」と狙いを語る。将来的にも木材の価値が安定的に維持・向上できれば、林業が魅力ある産業へと変わり、森林整備が促進されるという好循環の青写真を描いているのだ。

 森林整備が図れれば、生物多様性という違う環境の側面からの成果も期待できる。震災後に戻って来なくなった町のシンボル、イヌワシを呼び戻そうというプロジェクトがそれだ。プロジェクトに参画している佐藤さんは、「イヌワシが営巣するには、狩ができるよう、木のない場所も必要」と語る。森林にどう人の手を加えれば、イヌワシが戻りやすくなる環境になるのか調査研究を重ねる日々だ。

 南三陸町は関係各所挙げての取り組みによって、観光客が年々増えている。2017年には震災前を上回る140万人が訪れたという。「人が大切」で「たくさんの人に来てほしい」という思いはしっかりと実を結んでいる。次に花開くのは農業でのエコマーク認証取得か、それともイヌワシが戻る環境整備なのか。復興で進化する南三陸町から目を離すことはできない。

(写真)筆者

間藤 直哉

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