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「風」の触れあう音で涼を取る

=日本人が忘れかけた風情の味わい方=

2018年06月20日

地球環境

企画室
岩下 祐子

 毎年、夏を感じるのが早くなっている。梅雨入りする前に夏日になるのは珍しくなく、ニュースでは「過去最高気温」というフレーズを連日のように耳にする。

 暑さをより感じるのは人間のせいでもある。交通機関や建物などでは、寒いくらいエアコンが効いているところがある一方で、室外機からは熱風が吐き出される。筆者も外気温が28度以上になると飼い犬のためにエアコンをつける。小窓を開けただけでは、マンションの室内温度は下がらないためだ。地球温暖化が叫ばれる中で、時に罪悪感を抱くが、周りを見回して少しぐらいいいかとつい甘えてしまう。

 確かに子どものころは、こんなにも外気温が高く感じなかった。窓を開ければ風が入ってくるので扇風機の風で十分だった。祖父母と暮らしていたころは、日本家屋だったため軒につるした風鈴の音色を聞いて涼を取っていた記憶がある。今は子供の泣き声さえも、騒音と取られかねない時代。都内の住宅街では、めっきり風鈴を見かけなくなった。

 そんな風鈴の音色を夏の風物詩として堪能したいなら、浅草寺のほおずき市(2018年7月9~10日)や川崎大師の風鈴市(2018年7月18~22日)を訪れるのがお薦めだ。もともと風鈴は、音で魔や厄などをはらう魔除けの鈴として使われていた。特に魔除けの色とされる「赤色」を全面に塗られたものは、柄で福を呼び込むとされていた。50年ぐらい前までは、このような赤い風鈴が主流だったが、現在では素材や模様に工夫を凝らしたものなどさまざまなタイプが登場し、目で見ても楽しめる。

 その中でひときわ目を引くのが、「江戸風鈴」と呼ばれるガラス製だ。江戸時代中期、長崎のビードロ師が江戸でビードロを実演・展示したことで伝わり、末期になると長崎で製造技術を習得した江戸の問屋が売り出したことによって一気に広まった。明治・大正・昭和・平成と時代は移り変わったが、今も当時の技法で江戸風鈴を作っているのは2軒だけという。江戸川区にある1915(大正4)年創業の「篠原風鈴本舗」と、ここから独立した台東区の「篠原まるよし風鈴」である。このうち篠原風鈴本舗では、6月末まで風鈴作り体験(2000円=税込=)ができると聞き、足を運んでみた。

20180620.jpg篠原風鈴本舗「小丸 椿」
片面に椿の花、もう片面に「寿」という文字が描かれた絵柄
(写真)筆者

 体験に要する時間は、ガラス吹きから絵付けまで含めて約1時間。職人の大槻賢一さんに約1300度の釜でドロドロに溶けたガラスを棒の先に付けて取り出してもらったあと、棒の先から息を吹き込んでみた。最初はうまくいかなかったが、大槻さんが棒を回しながら「ゆっくり息を吹き込んでみてください。もう少し強めでも大丈夫です」と息の強弱までアドバイス。その通りにやってみると鳴り口になる小さな玉(口玉)がふくらみ始めた。いったん止めてから一気に空気を入れると、本体がお餅のようにふくらみ、丸みを帯びた風鈴の原型ができ上がった。

 これは宙吹きといわれる工程で、型を使わないで成形する独特の技法だ。棒から外した口玉と本体はひょうたん型をしており、700~800度の熱をもっているため一度砂の上でさまされる。そして口玉の部分だけ石で切り落とすことによってギザギザとした切り口がつくられ、振り管がこすれるだけで音が出るようになる。

 この道22年という大槻さんが風鈴作りを志したのは、小学校5年生のとき。社会科見学に来て衝撃を受けたのが理由だという。師匠だった同本舗三代目の篠原裕さん(故人)からは、「体で感じてこそ職人だ」と下積み時代の雑用を経て早いうちからガラス吹きなどを教わった。「ガラス吹きは、10年以上の修業が必要。吹き込む空気の量が弱すぎても強すぎて失敗します」と難しさを語る。

 次は絵付けの工程だ。顔料を油で溶いたものを筆で描いていくが、これがそうとう難しい。屋外に飾っても絵が落ちにくくするために、口玉の内側に描かねばならないためで、筆を操ろうとしても思い通りにはいかない。結局、花びら一つで10分以上かかり、絵心がない筆者は簡素な柄しか描けなかった。さすがにプロが描いたものは色もデザインも格段に鮮やかだが、それでも絵付けまでして完成できるのは1日150個前後という。

 こうして持ち帰った世界で一つだけの風鈴―。眺めれば眺めるほどうれしくなってしまう。騒音が気になって外につるせないなら、家の中の風の通り道にでも飾ってみようかなとも思う。風趣、風情などという言葉があるように、日本人は「風」に対して特別な思いがあるのかもしれない。たまにはエアコンを切って、風を音に変え、涼を取ってみるのも、これからの季節ならではの楽しみ方ではないだろうか。

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