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日本最小のホタル

=南の島で一足早い夏の風物詩=

2018年05月18日

地球環境

企画室
小野 愛

 沖縄の石垣島で、日本で最も小さいホタルを鑑賞した。日暮れとともに一つ、また一つと山の茂みにホタルの光が灯り始めた。そして、10分も経たないうちに、数十の光が舞いだした。黄味がかった光はしばらく群れて飛び続け、30分ほどで徐々に終わりを迎えた。淡い光を想像していたが、石垣島のホタルは小さな線香花火のようだった。多い日は、数百の光がイルミネーションのごとく辺りを埋めつくすという。

 世界には約2200種のホタルが存在する。日本では46種が知られている。筆者が見たホタルは、石垣島と西表島にしか生息しない「ヤエヤマヒメボタル」という種類である。本州で一般的な「ゲンジボタル」は、6月から7月に現れる。ヤエヤマヒメボタルは3月から6月に飛ぶため、一足早く夏の風物詩が楽しめる。

 同じホタルでも、両種は光り方が異なる。体長1~2cmのゲンジボタルは、日没後に休憩を挟みながら深夜過ぎまで光る。しかし、体長5mmに満たないヤエヤマヒメボタルは、30分程度しか光らない。また、ゲンジボタルは2~4秒周期でゆらめくように点灯するのに対し、ヤエヤマヒメボタルは0.3~0.5秒周期でチカチカと素早く点滅する。

20180518_01a.jpgゲンジボタル
(提供)りんぱな内藤明氏 リコーGR

20180518_02.jpgヤエヤマヒメボタル
(提供)りんぱな内藤明氏 リコーGR

 ホタルはなぜ光るのだろう。ほぼ全ての種は卵と幼虫も発光する。成虫になる前に光る理由は、はっきりとは分かっていない。毒や不快な成分をもつことを外敵へ警告しているとの説もある。成虫はどの種もが光るわけではない。日本では、46種のうち21種が成虫になっても光ることが確認されている。成虫になると、発光のパターンやタイミングを仲間とのコミュニケーションに利用する。筆者が見たホタルは、オスが地表近くでひっそりと光るメスに吸い寄せられるように飛んでいき、出会った瞬間に光が消えた。

 光る生物は一万種以上が地球上に存在する。ホタルをはじめとする多くの発光生物は、ルシフェリンという有機化合物と、ルシフェラーゼという酵素を体内にもつ。ルシフェリンとルシフェラーゼが反応する際に、光エネルギーが放たれる。この反応はエネルギー効率がとても高いため、生物が熱くなることはない。

 安全で省エネルギーなホタルの発光メカニズムが着目されている。2017年12月には「植物照明」がマサチューセッツ工科大学で発表された。ルシフェリンとルシフェラーゼなどをナノ粒子に入れ、その溶液を植物に浸透させる。すると、光る植物ができあがる。光が弱く、発光時間も3時間半と短いため、実用化にはまだ遠い。樹木などに適用し、エコな外灯の開発を目指しているという。

 生物発光のメカニズムは医療などの分野にも応用されている。例えば、ルシフェラーゼを細胞遺伝子に組み込むことで、ガン細胞を光らせ可視化できる。また、微生物を検出できることから、衛生検査にも使われている。ホタルの光には癒し効果があり、心理療法に利用できるのではないかという研究もある。

 毎年5月22日は、国連が定めた「国際生物多様性の日」である。石垣島ではたくさんの生き物に出会った。太陽のもとで羽音を立てて優雅に舞うチョウや、暗闇に響くフクロウの鳴き声、そして、命が燃えるようなホタルの光を忘れない。

20180518_03.jpgオオゴマダラ・石垣市の市蝶
(写真)筆者 リコーGR

 様々な可能性にあふれた生物と共存し続けていくには、どのような道があるか。自然から人を排除するべきという考え方もある。しかし、石垣島でエコツアーガイドを主催する「りんぱな」代表の内藤明氏は、人は自然の一部だと指摘する。

 「人と自然の繋がりを百年単位で考え、大切にしていきたい。ホタルにとっては、森の奥深くよりも林道のような人の手が少し加わった場所のほうが暮らしやすいこともある。しかし、ホタルはスマートフォンや車のライトなど、人工の光で照らされると混乱し、子孫を残せなくなってしまう」―ホタルは人が誕生するずっと前から生息してきた。ホタル科の昆虫は、1億4500万年~6600万年前の白亜紀に誕生したと推定されている。ティラノサウルスなどの恐竜も、ホタルの光を見ていたといわれている。

 「自然を見て体感することで、人はその素晴らしさを壊したくないと思うようになる」―と内藤氏は語る。環境に配慮しながら、まずは生き物の存在を知ることが共存への第一歩になると感じた。



参考文献:

「こころも育つ 図解ホタルの飼い方と観察」大場義信、ハート出版、2012年
「ホタルの発光パターンにおける1/fnゆらぎ現象と癒し効果」稲垣照美ら、日本機械学会、67巻657号、p.365-372、2001年
「ホタルの発光パターンにおける色相の1/fnゆらぎ現象と癒し効果」千葉恵美子ら、日本機械学会、72巻714号、p.109-117、2006年
「ホタル百科」東京ゲンジボタル研究所、丸善、2004年
「恐竜はホタルを見たか」大場裕一、岩波書店、2016年
「発光生物の光る仕組みとその利用」近江谷克裕、科学と教育、64巻8号、p.372-375、2016年
「Engineers create plants that glow: Illumination from nanobionic plants might one day replace some electrical lightning」Anne Trafton, MIT News Office, December 12, 2017
「A Nanobionic Light-Emitting Plant」Seon-Yeong Kwak, et al., Nano Lett. 17, p.7951-7961, 2017

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