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日本の山を若い力に託す

=高知県で今春開校する「林業大学校」=

2018年01月22日

地球環境

研究員
間藤 直哉

 日本の林業が衰退を続けている。その要因は主に就業者減少と高齢化にある。林野庁のデータによると、1990年に約10万人だった就業者数は、2015年には4.8万人とほぼ半減。65歳以上の就業者が占める高齢化率も、2010年時点で21%と全産業の平均値(10%)の2倍に上っている。

 林野庁も手をこまねいてはいない。2003年から「緑の雇用」事業で新規就業者への林業研修を推進している。しかし、せっかく研修を受けても数年で離職してしまう若い人が多いのが実情だ。こうした状況から就業者同様、森林も"高齢化"が進む。今や人工林は"適齢期"の樹齢50~60年のものが大半を占めており、本来なら切り出さなくてはならない。だが、人手と木材需要が不足するため、「待ち状態」が深刻化する。

 近年頻繁に起こっている中山間地域における土砂災害は集中豪雨が主因だが、森林の整備不良も一因といわれる。必要な間伐ができないために保水機能が低下し、問題を深刻にしているようだ。

 難問山積の林業だが、活性化に向けた取り組みも全国でスタートしている。林業大学校はその一つだ。前述の林業研修との大きな違いは、就職前にしっかりと体系だった教育を受けられること。高知県では、開校済みの林業学校に専攻課程が加わり、2018年4月に林業大学校として再出発する。2017年11月22日に行われた落成式には、校長となる建築家の隈研吾氏が出席。講師陣にはその道ではよく知られた専門家が名を連ねる。

20180118_01.jpg落成式の様子
(提供)高知県林業大学校準備室

 高知県は脱落者を出さずに1人でも多く林業関連の仕事に就いてもらうため、手厚い給付金制度を設けた。年間最大165万円を生活資金として支給し、若者や家庭を持つ人でも生活の不安を感じることなく授業に専念してもらうというわけだ。

 林業大学校には専攻課程が三つあり、毎年各コースから10人の卒業生を送り出す。「森林管理コース」では、森林GIS(地理情報システム)や森林施業プランなどを教え、森林を適切に管理できる林業経営の中核人材を育てる。「林業技術コース」は林業経営者が策定した施業プランに基づき、高性能林業機械を用いることのできるエキスパートを養成する。「木造設計コース」は高知県独特のもの。住宅から中規模建物までの設計技術を教え、木造建築のプロデューサーを養成する。

 林業大学校準備室チーフの遠山純人さんは、「建築設計を担う人の多くが鉄筋コンクリートの高層ビルに向かってしまい、木造の建築設計の成り手が減っている。それでは木材の需要も増えない。このコースで技術を習得した後、仕事で活用してもらう意義は大きい」と言う。

20180118_02.jpg高知県林業大学校準備室の遠山純人チーフ
(写真)筆者 

 確かに、担い手の育成・確保と言っても、これまでのように木を切る人ばかりを増やしても効果は知れている。計画・生産・活用の各分野でプロを育成できれば、林業の生産拡大に向けた好循環を期待できるはずだ。

 その道筋を確かにするためには、林業大学校の卒業生が林業関連の仕事に定着してもらう必要がある。はっきりとしたデータはないものの、現実には高校を出てすぐに林業関連の仕事に就いた人の離職率は高いとされる。思った以上に重労働であったり、安全面などの職場環境への不満があったりするため、早い段階で辞めてしまうケースが多いという。

 せっかく林業大学校を出ても、同様の悩みに直面する可能性は否定できない。これに対し、遠山さんは「林業大学校では全員が基礎知識を学ぶ。その中には森林が持っている機能や地球温暖化対策、木材の新しい利用先としての木質バイオマス発電の見学などがある。こうした中で林業の重要性を意識し、志のある人材が育ち、林業に携わるモチベーションが得られる」と語る。

 モチベーションが高ければ、多少の悩みがあっても仕事を続けようという意欲が生まれる。林業大学校では、個別相談や就職相談会、インターンシップなどを通じて本人と就職先のマッチングが図られる。一人ひとりの個性や適性にあった就職先を考えるのだ。

 安全面や処遇の改善も喫緊の課題だ。安全面に関しては、我流で何十年も仕事をしているベテランでも、その作業方法が「危ない」と指摘されることもある。今後、理論と実践を学んだ林業大学校の卒業生が現場に送り出されていけば、安全面での改善が期待される。

20180118_03.jpgフィールドワークの風景
(提供)高知県林業大学校準備室

 処遇については、いかに低コストで原木を切り出し、付加価値の高い製品を生み、その需要を増やして収益を上げられるか。また、林業大学校で学んだことを実践に結び付けられるかも、カギを握っている。

 とりわけ気になるのは、木材の需要先の開拓だ。遠山さんは「高知県には『モナッカ』という商品名の木製のカバンやコースター、名刺もあるが、木の使用量は少ない。やはり建築材です」と言う。

 建築材での需要増に期待が集まるのがCLT(Cross Laminated Timber=直交集成板)だ。最近注目を浴びている木質系材料であり、鉄筋コンクリートに代わって使われる強度の高いもの。林業大学校の校舎にも、地元産の木を利用したCLTがふんだんに使われている。完成直後だから、校舎内は木の香りが充満し、床や壁の木目も美しい。

20180118_04.jpg高知県立林業大学校の新築校舎
(写真)筆者

 近い将来、林業大学校の卒業生がCLTを自在に使いこなせるようになれば、普及に拍車が掛かりそうだ。公共建築物の建て替えにCLTの利用を促そうという動きもある。既に、高知県自治会館新庁舎や高知県森林組合連合会事務所などで実績がある。民間企業も低層の事務所であればCLTでの建設を検討してみてはいかがか。外観が目立つことは間違いなく、宣伝効果は抜群かもしれない。

 建築材以外での木材活用としては、再生可能エネルギーの木質バイオマス発電への期待も大きい。「これまで低質材の多くが山に捨てられていたが、燃料として売れるようになる」(遠山さん)―。高知県では大型の発電所がすでに2カ所設置されているが、今後は低質材や間伐材を無駄なく使える小型発電所の開発・普及が求められる。

 このように、木材をCLTとして利用すれば、温室効果ガス対策に貢献できる。その担い手の中心が、林業大学校の卒業生になる。森林浴を楽しむ際には、林業や林業大学校を思い浮かべながら、日本の森林の未来を考えていただきたい。

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※この記事は、2018年1月1日発行のHeadLineに掲載されました。

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