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「COP21・パリ協定」地球温暖化を考える

2016年03月25日

地球環境

主席研究員
則武 祐二

聞き手 RICOH Quarterly HeadLine 編集長 中野 哲也

 

――昨年末、フランスのパリ郊外で国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開かれ、「パリ協定」が採択されました。協定の目指すところや、「京都議定書以来18年ぶりの新たな国際的な枠組み」と言われる理由を教えてください。


 パリ協定の目的は、①世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ②同時に、1.5℃に抑える努力を追求する③気候変動の脅威への世界的な対応を強化する―などと記されています。また、協定の締結国は世界目標が達成されるように、削減目標を作成した上で5年ごとに提出・更新しながら、共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受けることになっています。

 気候変動枠組条約締約国会議(COP)は、1995年に第1回(COP1)がベルリンで開かれました。1997年には第3回の京都会議(COP3)で2000年以降の削減目標を定めた「京都議定書」が採択され、2008~2012年を第1約束期間として削減目標が定められました。2013年以降の第2約束期間に関しては、COPと併行して行われる京都議定書締結国会議(MOP)で議論され、2012年のドーハ会議(MOP8)において2013~2020年を第2約束期間として「京都議定書」の改正案が採択されました。しかし、日本を含めて離脱した国が多いため、発効はされていません。COP19(ワルシャワ)では、すべての国に適用される2020年以降の新しい法的枠組みを決めることが決定され、今回のCOP21(パリ)でその枠組みが合意されたというわけです。


――なぜ「2℃未満」なのですか。一方で、協定は1.5℃未満に抑える努力目標も盛り込んでいますが。

 

 2010年に開かれたCOP16(カンクン)において、「世界全体の気温上昇を産業革命以前に比べ2℃以内に抑えるとの観点から、温室効果ガスの大幅な削減の必要性を認識する」という合意に達しました。それに先立ち、その前年のコペンハーゲン合意文書の中に、「気温が1.5℃上昇することとの関連を含め、科学によって提示される種々の問題に関する長期目標の強化について検討すること」と記載されています。

COP開催状況

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 さらに、2013~2014年に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書に次の点が記載されたことも、パリ協定では考慮されています。下図に示されているように、「固有性が高く、脅威にさらされるシステム」は既に影響を受け始め、「極端な気象現象」は1.5度上昇でもリスクが高くなります。さらにパリ協定では、「今世紀後半には人為的な排出量と人為的な吸収量がバランスする」とも記されており、これは「実質的に排出をゼロにする」という意味になります。

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――そもそも、地球温暖化の元凶は本当にCO2なのでしょうか。「産業革命以前から存在する、太陽の黒点活動が影響している」といった説もありますが。

 

 IPCC第5次評価報告書では、「人間の影響が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高い」と記されており、世界中の関係する科学者が認めています。ただ、太陽の黒点活動が地球気温に影響を与えることは否定できませんし、私も影響していると考えています。しかしながら、CO2の大幅な上昇が起きた、ここ三十数年の地球気温の上昇は図に示すように、黒点活動の減少にも関わらず、大幅な気温上昇が起きているのです。

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――地球温暖化問題では、なぜ先進国と新興国が激しく対立しているのですか。

 

 まず、新興国の主張は次の2点になります。一つは、産業革命以降のCO2の増加は先進国の活動に因るものであり、その責任を果たすべきだとする主張です。もう一つは、最近の新興国のCO2排出量増加も、その多くは先進国の消費に伴う生産活動が原因であり、責任は先進国が果たすべきだとするものです。

 これに対し、先進国側は新興国のCO2排出増加が続く限り、地球温暖化を止めることができないため、新興国も責任を持って排出削減を進めなければならないと主張しています。

 こうした対立が続く中、解決を目指す一つの考え方として「カーボンバジェット」という概念が共有されています。これもIPCC第5次評価報告書で示されたものであり、「二酸化炭素の累積総排出量と世界平均地上気温の応答は、ほぼ比例関係にある」と指摘しています。
 
 IPCC第5次評価報告書によれば、CO2以外の効果も考慮すると、産業革命前からの世界平均気温上昇を2℃以内に抑えるには、CO2の累積排出量は790GtCが上限となります。ところが、2011年までにおよそ515GtC排出済みのため、2012年以降に排出できる量は差し引き275GtCになります。

 現在は年間10GtC程度を排出していますから、このペースが続くなら、2050年を待たずに、排出を止めなければなりません。ですから、世界平均の気温上昇を2℃以内に抑えるという目標に向け、残された排出量以内に抑えなくてはならないのです。このため、先進国と新興国を問わず、各国が目標を定期的に見直しながら、努力していくことで合意しました。これがパリ協定です。



――世界全体の温室効果ガス排出量のうち、米国と中国で約4割を占めると指摘されます。COP21 では両国はどのような役割を果たしましたか。


 最終的な合意に向け、排出量の多い米国と中国の影響は大きかったと想像できます。COP21開催中の昨年11月30日朝、オバマ大統領と習近平国家主席による米中首脳会談が開かれ、両国のリーダーシップの必要性が認識されました。さらにCOP21閉幕の前日、両首脳が電話で会談し、COP21を成功させることをお互い確認したと報道されています。

 中国では深刻な大気汚染の拡大が社会問題となり、習近平政権も国内対策の重要性を認識しています。温室効果ガスの排出削減と大気汚染防止の活動の多くは共通のものです。このため、COP21での国際的なリーダーシップの発揮と国際的なルールに基づく国内対策の強化は、中国政府にとって有益なものだったと思われます。

 例えば、中国は温室効果ガスの排出量取引の試行を7つの地域で実施しており、2017年からは国の制度として全国展開していきます。今年1月に国家発展改革委員会の正式な決定として制度の概要が公表され、国際的にも連携していくとしています。

 これに対し、米国では与党の民主党に元々、気候変動に対する危機感が強く、オバマ大統領も積極的に発言しています。

 米国内での温暖化対策に対する国民の行動は日本ではほとんど報道されていませんが、例えば2014年4月にはCBS系列で"Years of Living Dangerously"(全9回)というテレビ番組が放映されました。この中で、ハリソン・フォードやアーノルド・シュワルツェネッガーといった著名人が気候変動や環境破壊に見舞われている現場から最新の状況をレポートし、テレビ業界の最高名誉であるエミー賞を受賞しています(日本ではNHKBS1で2015年春に深夜放送)。また、2014年9月21日には、ニューヨークで約40万人が温暖化対策への取り組みを訴える史上最大規模のデモ(People's Climate March)が繰り広げられています。


――COP21で日本の政府や企業はどう取り組んでいましたか。


 日本の影響力は残念ながら、海外の報道機関やNPOなどの参加者からはほとんど伝えられていません。日本企業の存在感も大きくはありませんでした。この中でリコーグループは、長年の環境保全活動への取り組みが高く評価されたことにより、COP21のオフィシャル・パートナーとして再生複合機53台やプリンター124台、文書管理システムを提供しました。歴史的なパリ協定の合意文書を会場でプリントさせていただいたわけです。



――日本が約束した目標の達成は容易ではないと思います。政府、企業、家庭はそれぞれの立場でどのような取り組みを求められますか。


 日本が国連に提出した約束草案(目標)のレベルについては、幾つかの評価があります。環境省の公式サイトには、「エネルギーミックスと整合的なものとなるよう、技術的制約、コスト面の課題などを十分に考慮した裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによる実現可能な削減目標」として、2030年度に2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4200万tCO2)が記載されています。

 ここに示されている通り、日本の目標は「積み上げ」による実現可能な削減目標となっています。言い換えれば、残念ながら革新的な省エネやコスト増を伴うような施策は想定されていません。また、今回ベースになったエネルギーミックスは、国際比較では再生可能エネルギーの割合が高いものとは言えません。その一方で、原子力発電の比率が比較的高いため、原子力発電が想定通りに稼働しない場合は、他の施策を強化しない限り、目標達成が非常に難しくなります。

 日本の目標に法的拘束力を持たせるかどうかは別として、削減レベルは高いものを目指していくべきではないかと思います。例えば、リコーも参加している日本気候変動リーダーズパートナーシップ(Japan-CLP)が2015年5月に発表した意見書では、「わが国が責任を持って積極的に気候変動問題に取り組むには、2030 年の削減目標として、少なくとも1990 年比30%(2005 年比で約36%)以上が望ましいと考える」と示しています。

則武 祐二

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※この記事は、2016年3月25日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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