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中国が人口政策を大転換

一人っ子から二人っ子へ

2016年03月25日

中国・アジア

研究員
武重 直人

 中国は世界最大の人口(13.7億人)を抱えているが、日本を上回るスピードで少子高齢化が進行中だ。既に生産年齢人口(15~59歳)は2012年から減少に転じており、労働力の減少や社会保障費の負担増、消費需要の停滞といった問題が深刻化している。習近平政権は人口政策の「一人っ子」から「二人っ子」への大転換などを打ち出しているが、人口大国の前途には濃い霧が立ち込めている。

生産年齢人口(15~59歳)の推移
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 1979年以来、中国の共産党政権は「一人っ子政策」という厳しい産児制限を維持してきた。全国に50万人ともいわれる専従職員が配備され、国民がこの政策を守るよう目を光らせていた。

 ところが、生産年齢人口は予想以上に速いピッチで減少している。「待ったなし」の状況に陥り、ついに習近平政権は昨年、「一人っ子政策」の放棄を決断した。そして、次期五カ年計画(2016~2020年)の素案において、「二人っ子政策」に変更する方針を示したのである。

 ただし、夫婦一組の出生数を1人から2人に増やす政策に切り替えても、重くなってきた国民の住宅・教育のコスト負担を考えると、2人目の出産には疑問符も付けられる。また、生産年齢人口にプラス効果を及ぼし始めるまで約20年を要するため、「二人っ子への転換は遅きに失した」とする批判も少なくない。「二人っ子政策」によって2050年までに生産年齢人口は約3000万人増加すると予測されているが、この間の生産年齢人口全体の予測減少数(約2.6億人)には到底及ばない。

 また、中国では1953年以来、男性60歳、女性50歳という退職年齢の基準が適用されてきた。一方、平均寿命は男性74歳、女性77歳まで伸びている。このため、習政権は労働力の確保に向け、退職年齢を引き上げる方針も固めた。昨年末には政府系シンクタンクの中国社会科学院・労働経済研究所が、男女ともに65歳まで段階的に引き上げる計画案を発表し、これを軸に検討が進んでいる。

 さらに、習政権は「新型都市化」という名の大胆な人口移動政策も打ち出した。1億人規模の農村の余剰労働力を都市に引っ張り出し、労働力を維持しようというものだ。

 そもそも、中国には都市と農村の間に厳格な区別がある。1958年以来、都市住民と農村住民は戸籍で区分され、双方の移動は厳しく制限・管理されてきた。このため、農民が都市に移動しても、都市で医療や教育などの公共サービスは受けられない。また、農民が農地を離れると、土地の使用権を取り上げられてしまう。こうした政策によって、農民を土地に縛り付けてきたのである。

 その結果、都市化率(全人口に占める都市住民の割合)は先進国で75%を超えているのに対し、中国は戸籍人口でみると35%、常住人口でも54%に過ぎない。こうした中、習政権は「新型都市化」を人口政策の切り札に位置付け、都市化率を2020年までに戸籍人口で45%、常住人口で60%まで引き上げようとしている。


都市化率の推移と2020年目標

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 現在の総人口13.7億人のうち、農村に6.2億人が居住する。都市には7.5億人が住み、このうち2.6億人が農村戸籍を持つ出稼ぎ労働者とその家族である。新型都市化によって農村の1億人を都市に移動させるほか、さらに都市在住の農民1億人の戸籍を都市戸籍に切り替えることを目標としている。

 新型都市化からは、習政権の幾つもの狙いが透けて見える。都市部において労働力を確保するだけでなく、移動する農民に都市部の高所得を与えて個人消費全体の底上げを目指す。また、農村部の人口減少によって、農業生産性と農民所得の引き上げを図る。さらに、農民の移動によって必要になるインフラの整備事業を通じ、内需を喚起する。中小都市に積み上がったままの住宅在庫を、流入する農民の住宅需要によって解消しようという思惑もある。


建物在庫面積の推移

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 新型都市化が目指すのは、単なる都市部の拡大ではない。農民に都市市民の権利(=都市戸籍や都市の公共サービス)を与えようという、「人の都市化」である。このため、戸籍制度や土地管理制度など、様々な制度や法律も一斉に変更しようとしている。

 移動農民の受け皿となるのは主に中小都市である。この中には一般的な都市を表す「城市」のほか、農村地域の中の小さな都市を表す「鎮」が含まれる。このため、今回政府が推進する都市化は、「城市化」ではなく、「城鎮化」と表現される。それには、規模が小さい都市ほど、移動農民に戸籍を与える条件を緩くするという意図が含まれている。

 中国を東部・中部・西部に分けてみると、都市化率は工業化で先行した東部沿海地域で高い。逆に中部と西部は低くなっている。そこで政府は、労働集約型の産業を東部から中・西部へシフトさせた上で、移動してくる農村労働力の受け皿にしようとしている。一方、東部沿海地域は工業のハイテク化やサービス産業への移行など、産業の高度化を目指す。また、全国に「主体功能区」と呼ばれる都市群をつくり、域内都市間の連携強化も図るという。

 実は新型都市化に関して、識者は以前から幾つかの問題を指摘していた。清華大学(経済管理)の魏傑教授は「農民を移動させようにも、行き先の中小都市には産業の下支えがなく、十分な就業機会は創出できない。そのような環境で農民が自立するのは難しい」とみる。その上で、「農民の市民化」に対する信頼は既に揺らいでいるとまで主張している。

 また、同教授は農村から都市に流入する全員に対し、政府が保障性住宅(=低所得層向け住宅)を供給することは不可能だという。このため、「事実上、農民は一般の商品住宅を買うしかない。しかし、都市の住宅価格は農民の購買力を超えている」と断じている。

 また、清華大学(都市設計)の尹稚教授は、政府が期待する移動農民の購買力の向上について懐疑的である。「都市に移動するだけで、農民の消費能力が高まるわけではない。都市で貧民になる可能性も十分にある」「農村から都市に移動すると生活コストが劇的に上昇する。そこにさらなる消費力が形成されるだろうか」―

 それ以外にも難しい問題がある。概して地方政府の財政事情は厳しい。このため、農民を受け入れる中小都市が、新たに発生する公共サービス需要の財源を満足に確保できるだろうか。生産年齢人口の減少を背景に、習政権は野心的な政策を矢継ぎ早に打ち出しているが、果たしてその実現性は...。共産党一党独裁体制の真価が問われることになる。

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※この記事は、2016年3月25日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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