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深刻化する中国の人口問題

=総人口減少は大幅に前倒しか=

2021年07月14日

中国・アジア

主任研究員
武重 直人

 中国政府が10年毎に実施する国勢調査の結果に疑念が渦巻いている。中国国家統計局は2020 年に実施した国勢調査の結果を2021年5月11日に公表した。総人口は14億1178万人、この10年で5.38%増加したと発表した。ところがその数字には不自然さが目立った。中国共産党の功績を誇示したい結党100周年(7月1日)を間近に控えたタイミングだっただけに、公表値は政治的粉飾の疑念が拭いきれない。中国の総人口減少は従来の認識よりもずっと早く訪れる、若しくはすでに訪れたかもしれない。

「人口減少」FT報道を中国当局が完全否定

 これに先立ち4月27日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、複数の国勢調査関係者の証言を基に、中国の総人口が前年比で減少に転じたという記事を掲載していた。蓋(ふた)を開けてみると、統計局がこの記事を完全否定した結果となった。

 しかし、必ずしも「誤報」とは断定できないように思う。なぜなら、これまでの公表値を勘案すると、総人口の増減率が明らかに不自然な推移を示すからだ。

 国勢調査とは別に統計局が実施しているサンプル調査の結果(各年の総人口の増加率)を見ると、2016年以降、0.7%増→0.5%増→0.4%増→0.3%増と鈍化傾向が続いていた。その一方で今回公表の国勢調査では、2020年は0.8%増と一転して大幅な伸びに転じているのだ。

総人口の対前年増加率

 図表

(注)2021年5月修正前の数値
(出所)中国国家統計局を基に筆者

 では将来、中国の総人口が減少に転じる時期はいつなのか。世界的な関心が集まる中で、統計局の担当者は「時期は不明」とコメントして煙に巻いたが、その時期を示唆する「官製報道」がある。

 中国共産党系メディア「環球時報」は4月29日付記事で、総人口のピークが2022年になるという学者の説を国勢調査結果の発表前に報じている。推測すると、当局としても近い将来の総人口減少は不可避であり、「2023年以降に人口減が判明する」というシナリオを社会に植え付けたいのだろう。

 この見立てには理屈が付きやすい。2021年は共産党結党100年の節目になるため、当局としては人口減を受け入れ難い。また、2022年は5年に1度の党大会が開催され、党幹部人事が決定される。習近平総書記にとっては、上限を2期10年としてきた任期の慣例を反故(ほご)にしてまで3選に挑む正念場になる。向こう2年間、人口政策の行き詰まりを暗示する話題は避けなければならない。

出生数が停滞、「二人っ子」は失敗か

 裏返すと、それほどまでに中国の人口問題は深刻化しているのだ。

 2019年の国連中位推計は中国の総人口のピークを2031年と予測していたが、前述のFT報道や「2022年説」が本当ならば10年単位の前倒しになる。

 その大きな要因が少子化だ。中国は2016年、産児制限を「一人っ子」から「二人っ子」に完全移行。出生数はその導入年こそ増えたものの、その後は減り続けている。政府は2020年の出生数を2000万人と予測していたが、今回の曰(いわ)く付き公表値でも1200万人にとどまった。もはや出生数の停滞は隠しようがない。

「二人っ子」完全移行(2016年)前後の出生

図表(注)2021年5月修正前の数値
(出所)中国国家統計局を基に筆者

出生数・死亡数・自然増加数の対総人口比

図表

(注)2021年5月修正前の数値
(出所)中国国家統計局を基に筆者

 出生数減少の理由として挙げられるのが、重い教育費負担である。長年にわたる一人っ子政策によって、大事な子どもに高額な教育費を投じることが社会の標準となり、2人目にまでお金を回す余裕がないのである。中国共産党は2021年5月31日の政治局会議で3人目の出産を認める方針を示したものの、それだけでは事態打開は難しいだろう。

高齢化も猛スピードで進行

 一人っ子政策の反動に伴い、中国では高齢化も猛スピードで進んでいる。2000年頃に既に、65歳以上の人口比率が7%を超える「高齢化社会」に突入した。

 その後2010年代半ばから、高齢化が急加速しているのだ。

65歳以上の対総人口比

図表(出所)国連中位推計を基に筆者

 65歳以上の人口比率が7%以上の「高齢化社会」が、14%以上の「高齢社会」へ移行するまでの年数を国際比較すると、中国や韓国、日本のスピードぶりは一目瞭然だ。

各国の高齢社会への移行年数

図表(注)*60歳以上が10%超となった年
(出所)中国人民銀行(2021年3月)を基に筆者

人口動態が対米競争の足かせに

 中国にとって大きな懸念は、人口減少や少子高齢化といった人口動態の悪化が、米国との競争において足かせになりかねないことであろう。

 習近平体制の第2期が始動した2017年10月の政治活動報告で、習総書記は建国100年(2049年)を念頭に置き、今世紀中葉までの長期ビジョンを示した。

 この中で、2035年までに「経済や科学技術で革新型国家の上位に上り詰め」、2050年頃までに「トップレベルの総合国力と国際的影響力を有する国になる」と表明。事実上、米国からの覇権奪還を宣言したものとみられている。

 ところが、国連中位推計によると、これから中国の人口動態は米国より悪化する。高齢者人口の生産年齢人口に対する比率(65歳以上人口/15~64歳人口)が2038年に米国を上回る。また、総人口に対する生産年齢の人口比率も2044年に米国を下回る。

高齢者人口/生産年齢人口

図表(出所)国連中位推計を基に筆者

生産年齢人口/総人口

図表(出所)国連中位推計を基に筆者

 つまり、中国では年金・医療などの社会保障負担が各段に増大する「人口オーナス期」が本格化するのだ。それが経済成長を阻害し、対米競争力に影を落とすことになる。

 しかも前述の通り、国連中位推計が中国の総人口のピークアウト時期をFT報道などに比べて10年遅く想定していることを考慮すると、人口動態の「米中逆転」はさらに前倒しになる公算が大きい。

 無論、中国当局も強い危機感を抱いている。2021年3月に発行された中国人民銀行(中央銀行)のワーキングペーパー「わが国の人口動態転換の認識と対策について」は、対策案として産児制限の完全撤廃や内外新興地域への投資による労働力活用、年金制度改革、教育と科学技術の振興などを多角的に提言している。

 しかしながら、そのいずれもが「対症療法」か、成果が出るまでに長期間を要する政策であることは間違いない。人口動態の悪化は静かに、だが確実に進み、覇権を狙う中国の国家戦略にとって潜在的なリスク要因であり続けるだろう。

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※この記事は、2021年6月30日発行のHeadLineに掲載されました。

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