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習近平「一強体制」は超長期化か?

=共産党大会後の中国を占う=

2018年01月29日

中国・アジア

主任研究員
武重 直人

 習近平体制が超長期化する気配が濃厚になってきた。2017年10月、5年毎に開催される中国共産党大会が閉幕した後、少なからぬチャイナ・ウオッチャーが抱いた印象だ。(敬称略)

 中国共産党は、毛沢東の独裁下で引き起こされた文化大革命のような惨事を繰り返さぬよう、鄧小平時代から約40年にわたり、「秩序ある指導者の交代」や「集団指導体制」を続けてきた。ところが、習近平はそれを「一撃で破壊した」と、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は評する。

 党幹部人事の不文律に従うならば、習は2期目の5年間を終える2022年に、権力トップの党総書記から引退するはずだ。ところが先の党大会では、習体制の超長期化を暗示する三つの「兆候」が観察された。

 第一に、党規約に習近平の名を冠した「思想」を盛り込んだことである。これは毛沢東以来のことだ。鄧小平理論が党規約に入ったのは現役引退後であり、しかも「思想」より一歩退いた「理論」にとどまった。すなわち、習近平は鄧小平を超え、毛沢東に並ぶポジションに自らを置いたのである。

 第二に、党の長期ビジョンを掲げたことである。これは習が82歳になる2035年までの「社会主義現代化」と、今世紀半ばまでの「社会主義現代強国の実現」の二段階で構成されている。かつて毛沢東や鄧小平は80歳代で最高実力者として君臨し、江沢民も90歳を超えて今なお影響力を行使する。実は、党大会前には毛沢東の終身職だった「党主席」を習のために復活させようという試みもあった。これと併せて、上記の長期ビジョンは習の長期君臨の意思表示ではないかという見方もある。

 第三に、今回の党幹部人事において後継者の選出を見送ったことである。党幹部人事の次の三要件から、習の後継者は57歳以下でトップ7(中央政治局常務委員)に入る必要があった。


・総書記は2期10年務める。
・総書記就任前にトップ7(常務委員)の経験を要する。
・全ての党幹部職は就任時に67歳以下である。


 党大会前はその候補として、エリート街道を歩み続けてきた胡春華(こ・しゅんか)や、習の信頼厚い陳敏爾(ちん・びんじ)が有力視されていた。ところが、この2人を含め、上記の三要件に合致する人物は1人もトップ7入りしなかった。

 代わってトップ7入りした幹部は、いずれも60歳を超えている。仮に習が5年後に党総書記を退いても、残るメンバーは67歳までに党総書記を1期しか務められない。つまり今回の人事で三要件は事実上破綻してしまったのである。

 それでは5年後のトップ人事で何が起こるのだろうか。現時点で想定されるケースは①69歳になる習が年齢制限(67歳)を撤廃し、党総書記3期目に突入する②習が毛沢東時代の党主席を復活させて自ら就任し、党総書記は子飼いに譲って事実上の院政を敷く―などである。

新しいトップ7(中央政治局常務委員)

20180129_01.jpg(写真出所)中国共産党新聞網
*印は留任、年齢は2017年10月時点

 実際、習は長期君臨を見据えた布石を打っている。中央委員(204人)を選抜するに当たり、候補者との面接を重ね、自らへの忠誠心を確認していった。このうち、25人しかいない中央政治局委員の選抜においては、新たに昇格した15人のうち12人が、習と親しい関係の友人や知人、部下だった。このような長期的視点に立った人事は、5年後に任期を終えて引退しようとする人物のものではない。

党幹部のピラミッド構造

20180129_02.jpg(出所)筆者作成

 習体制が強化されることで、中国の経済や企業活動にはどのような影響が生じるのだろうか。

 習政権の過去5年を振り返ると、まず政権発足当初は「市場に資源配分の決定的な役割を担わせる」と強調されていた。だが実際には、党・政府が市場への関与を強めていった。具体的には、公共投資の拡大や国有企業への優遇的措置、国有企業の合併を通じた大型化などである。その副作用として、中国経済にとって最大の懸案とされる「過剰生産能力」や「企業債務」が膨張してしまった。

 仮に習の権力強化によって、前述の政策が強まると、懸案の過剰生産能力や企業債務の削減は進みにくくなる。実際、習政権は大規模な企業破綻のリスクを避けて改革を先送りするだろうという見方も出ている。

 習政権で構造改革を主導した経済学者の劉鶴(りゅう・かく=国家発展改革委員会副主任)が今回の党人事で中央政治局委員に昇格した。これによって構造改革が加速するという観測がある。一方、①党の中枢は改革よりも成長を望む勢力が圧倒的に強く、劉は孤立するだろう②劉の重用は、習がライバル視する首相・李克強の経済政策における存在感を薄める方策にすぎない―といった見方も出ている。

 習政権下で顕著になったもう一つの特徴は、党による企業コントロールの強化である。党規約は企業に党員が3人以上いる場合、党組織をつくらなければならないと定める。また重要な経営判断に際しては、党組織の意見を聞かなければならない。これが2017年から厳格化し始めたのである。

 例えば、習政権は大企業約3200社に対し、会社定款(社内規定)に党の意向に添う旨を盛り込むことを要求。それを受け、多数の企業が「社内党組織の意見を優先的に聞く」などの文言を定款に加えた。外資企業にも適用しているという。

 こうした流れが強まると、企業経営においては、党組織の同意を得るための負担が増す。また、その同意を得られず意思決定が滞る、あるいは企業秘密が党組織を通じて流出するといったリスクが拡大する。先の党大会においても、習は経済分野を含むあらゆる場面で党の関与を強める姿勢を打ち出している。

 かつて鄧小平はイデオロギーに固執する毛沢東の路線から180度転換し、新しい時代を切り拓いた。改革・開放政策を導入し、米欧を範とする市場化や制度化を推進。それがこの40年間、中国の政治・経済の運営の大前提とみなされてきた。

 ところが現在、習政権はそれに逆行する傾向を強め始めた。中国発の政治・経済モデルへの自信の表れなのだろうか。これを「鄧小平路線の終焉」「毛沢東時代への一部回帰」とする評価も見られる。その評価が正しいとすれば、「かつて毛沢東が行った終身支配を、習近平が再現する」というシナリオも現実味を帯びてくる。「一強体制」の超長期化は決して絵空事では済まされなくなる。

武重 直人

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※この記事は、2018年1月1日発行のHeadLineに掲載されました。

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