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「危機管理」を触媒に日蒙関係を強化したい

潜望鏡 第12回

2016年10月05日

中国・アジア

HeadLine 編集長
中野 哲也

 筆者が理事を務める日本危機管理学会とモンゴル国立大学はこのほど、第一回危機管理交流会をウランバートルで開催した。モンゴルは人口300万人余の小国。だが、中国とロシアという大国に挟まれ、また北朝鮮とは独自のパイプを維持するなど、地政学上の重要性は決して小さくない。

 「アジア諸国における危機管理の経験」と題したシンポジウムでは、日本とモンゴルの研究者が多岐にわたるテーマで研究成果を発表。モンゴル大学が公式行事としたため、多数の学生も詰め掛けた。ダグワ-オチル・ボムダリ准教授による流暢な日本語通訳のおかげで、議論は大いに盛り上がった。

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 日本側からは、①「アジアの危機における日本・モンゴル関係」(池田十吾・日本危機管理学会会長、国士舘大学教授)②「空港の危機管理の一側面としての偽造旅券対策」(酒井明・千葉科学大学教授)③「日本・モンゴルのサイバー危機管理協力」(原田泉・日本危機管理学会理事長、国際社会経済研究所主幹研究員)④「日本の高齢社会に対する介護と健康への取り組み」(安藤裕一・GMSSヒューマンラボ代表取締役社長)のほか、筆者が「中国の人口減少と習近平の危機管理」についてプレゼンテーションを行った。

 まず、研究者や学生の関心が予想以上に高くて驚いた。例えば、筆者のプレゼンに対して学生からは、「日本は人口減少を予見できなかったのか。できていたならば、なぜ対策を講じなかったのか」「中国の人口が減っていくと、モンゴルや日本の経済に対して具体的にどんな影響が生じるのか」といった鋭い質問が飛んできた。学生からは男女を問わず、民主化・市場経済移行から四半世紀足らずの「若い国」を背負っていく気概をひしひしと感じた。

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 モンゴル側の議長を務めたモンゴル大学政治学部のソノムダルジャ・ムンフバト院長は「モンゴルでもサイバーテロなどに関する危機管理の必要性が増している。成功を収めた今回に引き続き、交流を続けていきたい」と話した。一方、日本危機管理学会の池田会長は「今回の試みがモンゴルで危機管理研究が本格化する第一歩になれば大変うれしく思う」と話す。また、原田理事長は「同じ価値観を持つ日本とモンゴルが協力していけば、東アジアの安定にも貢献するはずだ」と指摘する。

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 「モンゴル」と聞くと、日本人はすぐに大相撲や大草原、チンギス・ハーンなどを思い浮かべるはず。しかし、民主化以降のモンゴルに対し、日本が最大の援助国であるという事実はあまり知られていない。輸出額を見ても日本→モンゴルは約250億円にとどまり、モンゴル→日本も約50億円。日本→中国の約11兆円、モンゴル→中国の約3400億円に比べればケタ違いに少ない。危機管理が日本・モンゴル関係強化の触媒になるよう、研究者による「草の根外
交」が始まった。

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(写真)筆者 PENTAX K-S2 使用

中野 哲也

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※この記事は、2016年10月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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