技術者が語る 3Dプリンターのいろは

ポリカーボネート(PC)とは

本記事の内容が当てはまる造形方式

  • FDM
ポリカーボネート(PC)の概要

ポリカーボネート(PC)は、熱可塑性プラスチックの一種で、モノマー単位同士の接合部が、すべてカーボネート基 (-O-(C=O)-O-) で構成されるため、この名が付けられました。
PCは優れた耐熱性、機械的特性、電気的特性などをバランスよく備え、かつ自己消火性を示すエンジニアリングプラスチック(エンプラ)で、電気製品や自動車など工業製品に主に使われています。

ポリカーボネート(PC)の特徴

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 図1

ポリカーボネート(PC)は図1の化学式で表されます。主鎖に剛直な芳香族環を有し、モノマー単位同士の接合部は、すべてカーボネート基 (-O-(C=O)-O-) で構成され、かさ高いイソプロピリデン基(-C(CH3)2-)を有する非晶性プラスチックです。

PCについては以下の特徴が挙げられます。
①機械的強度が大きいです。
②ガラス転移点150℃前後で、耐熱温度は120℃~130℃と樹脂の中では高めの耐性を持ちます。
③酸素指数が24から25で自己消火性があり、難燃剤を添加することによって難燃化が容易です。
 酸素指数:プラスチックに火をつけた状態で、その燃焼が持続するのに必要な最低酸素濃度をパーセンテージで示した指標。酸素指数が21より大きいプラスチックは空気(酸素濃度21%)中で燃えにくく,小さいものは燃えやすいことを示しています。
 自己消火性:炎にさらされる間は燃えますが、炎から離されれば消火する性質です。
④非晶性樹脂で成形収縮率が小さく、成形時の寸法精度が優れています。また吸水率が比較的低く吸水寸法変化が小さい、クリープ変形も小さいという特徴により寸法安定性が優れています。
⑤絶縁抵抗、耐電圧が優れています。電気的特性が広い範囲にわたって変化しないので絶縁材料として適しています。
⑥耐薬品性については、カーボネート基を有しているのでアルカリ、高温高湿度の環境などにより加水分解を起こしやすい性質があります。
⑦有機溶剤に侵され易く、有機溶剤、油、グリースなどによってケミカルクラックが発生することに注意する必要があります。

3Dプリンターの材料としてのポリカーボネート(PC)

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 図2

ポリカーボネート(PC)は3Dプリンターの世界では材料押出堆積法(FDM:Fused Deposition Modeling)と呼ばれる製法で使用されており、優れた機械的特性、耐熱性を有する材料として、高機能試作や最終用途部品生産で利用されています。
ただし、以下のような注意点があります。
①PCは一般的には耐衝撃性に優れているイメージがありますが、FDMで造形した場合は他のプラスチック材料と比べてそれほど優れているわけではありません。強度を要求される用途では造形物の物性を確認しておく必要があります。(参考:「3Dプリンターで使われる造形材料・素材・物性一覧」)
②PCの造形では、PCはアルカリにより加水分解を起こしやすい性質があるためアルカリ溶液に浸すことで溶けるSolubleサポートを使用することができません。使用できるのは工具などを用いて物理的(力づく)に剥離するBreak Awayサポートのみです。(参考:「FDMサポート材の種類と特長」表1)複雑な形状や強度の低い形状ではサポートの取り残しが発生したり、造形物を破損するため可能な限り肉厚を増やしたり、ブレーク時に応力が集中しないよう設計的な工夫をすることが必要となります。(参照:「ブレークアウェイ方式のサポート材は除去時の苦労を考慮して造形しよう」)また、サポート除去時は少なからず造形物に負荷がかかるため常に慎重に行うことが重要となります。

(佐藤 達哉)

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